真理は真理であるまえに、うつくしい Was ist Wahrheit? Sie ist etwas Schönes.
「浴槽から出るアルキメデス」。同性カップルらしい二人の視線の先に、アルキメデスが描かれています。世紀の大発見の瞬間にも、彼らの眼はもっぱら、発見者の肉体美に注がれているわけです。でも、それは見当外れだとか、低俗だとか、この画家はけっして考えていません。アルキメデスではなくこの二人を、画面の中央に描いているからです。
「真理は真理である以上に、美しい」――この絵は、そう主張しているかのようです。
真理は肉体とも性とも矛盾しない。――言葉にして記してしまえば、ただそれだけのことですが、人は、とかくそうは考えません。肉体を離れても存在する「精神」というものがあって、真理は「精神界」に属するのだと。性は移ろいやすく、真理は常住不変なのだと。
だから人は、性のようにしなやかな真理を、真理のように移ろわぬ性と愛とを求めるのでしょうか。
きょう、ちょっと書きたかったのは、ぼくの住んでいる町にある八百屋さんのことです。八百屋、肉屋、魚屋、靴屋、……そういった・むかしからあるお店が次々につぶれていって、大型量販店とマンションばかりの街並みになってしまったのは、あれはもう 10年前のことだったでしょうか？ 20年以上は昔だった気がします。
いま東京の中心部へ行くと、むかしあった町並みはすっかり壊されて無くなってしまい、広い道路とビルだけの無味乾燥なロボット・シティーに変貌しています。商店主だった住人たちも、みな引っ越してしまいました。住む人がいないので、小学校もみな潰れて、いまはありません。
年年歳歳花相似
歳歳年年人不同
東京でも、目黒区柿の木坂とか、港区白金とか、高級住宅街に限って、なぜか昔ながらの商店が残っているそうです、ぼくは行ったことがありませんが。あとは、↓こういう「八百屋」が健在なのは、地方都市に限られています。
ぼくの町の八百屋さんも、けっして“健在”ではありません。昼間からシャッターを半分下ろして、シャッターの前に野菜や果物を箱のまま置いて、ほそぼそと営業しています。玉ねぎやリンゴを適当に拾って中に入っていくと、八百屋のおじさんはいつも気さくで、このリンゴは持ちがいい、そのリンゴは甘くておいしいが、早く食べないと味が変ってしまう、などと親切に教えてくれます。
人通りの多い交差点にあるのですが、通行の人びとは、せわしそうにシャッターの前を通り過ぎて、駅前の量販スーパーへ向かって行きます。ぼくは、自分以外のお客が八百屋の店に入ってゆくのを見たことがありません。
都内でも、高級住宅街の住人のような人たちは、自分の世界に自信があるのでしょう。しかし、大部分の人は、もうそんなものはとうに喪(うしな)ってしまったように見えます。そして、見えない糸にあやつられるようにして、広告と電波の命ずるまま消費と勤務生活にいそしんでいるのです。
そこへ、上からも「下」からも、喧(かまびす)しいかけ声が聞えてきます。日本は諸外国と違って労働生産性が上がらない。もっと生産性を上げなければ、不況と貧困から脱することはできないぞ！‥
生産性も経済成長率も上がっているというヨーロッパでは、人びとの生活は、もっとロボット化しているのでしょうか？ それとも、昔ながらの商店の街並みと“生産性”を両立させているのでしょうか？
あるいは、韓国や台湾では、どうなのでしょうか？
ヨーロッパが無理なら、近くの国にでも行って、自分の眼でたしかめたい気がするのです｡｡｡
ことし一年、ギトンのあちこちのブログ、ご覧いただいてありがとうございました。とくに、年末になってから急に始めたこんな場所にまで足をはこんでくださった方には、感謝にたえません。新年のごあいさつは、↓「パヴィリオン」のほうでいたします。
今年はなかなか思うようでなかった人も、来年は思わぬ幸運を手にして、よろこび合えますよう、心よりお祈り申し上げる次第です。
