ギトンの秘密部屋だぞぉ

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モツにこみ━━第八夜:もつファミ


モーツァルトのゴッタ煮‥第八夜

最終回の今夜は、モーツァルトの家族‥父ちゃんと姉ちゃん‥‥


Leopold Mozart Musical Sleigh Ride - YouTube
from "Viaje Musical En Trineo"
Orquesta Festival Praga
Manuel Drezner
レオポルト・モーツァルト『音楽の橇滑り』から
プラハ祝祭管弦楽団
マヌエル・ドレズナー(指揮)

モーツァルトのお父さんレオポルト・モーツァルトは、ザルツブルクのカテドラル(大司教座聖堂)で宮廷楽団に所属しヴァイオリンを弾いていました。
後には、宮廷作曲家の称号を与えられ、宮廷副楽長に昇進しています。
オポルトの作品は、↑↑このように、効果音をふんだんに盛り込んだ楽しい曲が多く、宮廷、貴族、教会信徒の受けを狙ったポピュラーな作風でした‥‥反面、音楽的な内容はあまり印象に残るものがなく、できのわるい曲のように思われますが、‥‥どうしても息子のヴォルフガング=アマデウスと比べてしまうので‥それは酷というものかもしれません‥
(効果音のセンスもいまいち‥‥‥ぐゎひぃん‥それは言わないで!!)



ロック・オペラ「モーツアルト」(フランス版)

↓↓次の「おもちゃの交響曲」も、18世紀にハイドンの作品として出版され、1951年以後はレオポルトモーツアルトの作品とされてきましたが、最近1992年の新資料発見によって、チロル地方の郷土音楽家エトムント・アンゲラー神父の作品であることが判明しています:

L. Mozart (E. Angerer): Toy Symphony, Berchtesgadener Musik Kindersinfonie (1st version) - YouTube
I. Allegro
II. Menuetto
III. Finale: Presto
Toronto Chamber Orchestra / Kevin Mallon (conductor)
with (ocarina)(wooden trumpet)(recorder)(hurdy-gurdy)(snare drum & bird whistle)(ratchet & shakers & triangle),strings,oboe1,2,horn1,2
ケヴィン・マッロン(指揮)
トロント室内楽

「おもちゃの交響曲」は、18世紀にヨーゼフ・ハイドンの作品として出版されましたが、ハイドンのシンフォニーとはあまりにも作風が違うので、疑問が持たれていました。(現在でも“ハイドン作曲”と書かれている教科書や曲集があります)
1951年に、レオポルトモーツアルトの作品と思われる自筆譜(全7曲)がドイツで発見され、その中の3つの曲が「おもちゃの交響曲」の3つの楽章と同じだったので、“じつはモーツァルトのお父さんの作曲だった”というニュースは世界中に受け入れられました。たしかに、おもちゃの笛や太鼓を使ったこの曲の楽しさは、レオポルトの作風に似ているように思われたのです。。。

ただ、使われているおもちゃについては疑問が残りました。“ザルツブルクの玩具屋の依頼でレオポルトが宣伝用に作曲した”という・まことしやかな逸話も“創作”されたほどでしたが‥いかんせん、その「玩具屋」がどこだか分からない‥w‥楽譜に書かれているカッコウ笛やらラッパやら‥を作っていたという確証がありません。。。

1992年、昔から玩具製造地として有名なベルヒテスガーデンの近くにある修道院の蔵書から、「おもちゃの交響曲」の18世紀の写譜が発見され、そこには、チロル出身の作曲家エトムント・アンゲラーが1770年ころに作曲したと書かれていたのです。
しかも、写譜に指示されている玩具は、ベルヒテスガーデンで現在も製造されている伝統的木製玩具と一致したのでした。。。
(なお、アンゲラーは、この写譜発見まで、まったく忘れ去られていた作曲家でした‥)
左は、チロルのシュタムス修道院で発見された「おもちゃの交響曲」の写譜(扉頁)。ヴァイオリン、ヴィオラなどと並んで、カッコー笛など玩具の名前が並び、下左には「エトムント・アンゲラー」、その右に第1楽章冒頭の楽譜が見えます
下右は、ベルヒテスガーデンで製造されている木製玩具

そこで、現在のところ、「おもちゃの交響曲」はアンゲラーが作曲したという説がもっとも有力です‥‥【参照:Wikipedia
たしかに、「おもちゃの交響曲」は、笛などのおもちゃの音を除いた純粋な音楽としても、
単純素朴ながら、たいへん印象深い作品でして、
オポルトより楽才のある人が作曲したように思われますww
それだからこそ、レオポルトの作品はすべて忘れ去られても、「おもちゃの交響曲」のほうは、現在まで世界中で親しまれているのだと思います。。

Leopold Mozart/ヴォルフガングのために (第2楽章)ファンタジア - YouTube
レオポルト・モーツァルト(?)
瀬戸内 マンドリン クインテット演奏。

オポルトは、息子ヴォルフガング=アマデウスの練習用に曲を集めた音楽ノート「ヴォルフガングのために」、またアマデウスの姉ナンネルル用音楽ノート「ナンネルルのために」を残しています。
そこに書かれている曲は、レオポルトの作曲と思われるものもあり、同時代のほかの作曲家の作品を写したものもあり、幼いアマデウスの作曲に父が手を加えたもの、‥‥また、今日まで誰の作品か判明していない曲も多数あります。
↑上の「ファンタジア」も、東欧風の情趣に満ちた曲ですが、それだけに、レオポルトの作品にしては良すぎるようにギトンには思われるのですが…

Mozart's Sister (2011) HD Movie Trailer - YouTube
映画『モーツアルトの姉』(2011)トレイラ

↑↑モーツァルト・ファミリーで、いまいちばんホットな話題になっているのが、アマデウスの姉 ナンネルル(マリア=アンナ・モーツァルト)ではないかと思います。
“ナンネルル(Nannerl)”は、オーストリアの方言でアンナの愛称です



映画のトレーラーにも出ていたように、父レオポルトは、大司教に休暇をもらっては、才能のある姉弟ナンネルルとアマデウスを連れてヨーロッパ中の歌劇場や宮廷を巡って演奏を披露し、アマデウスを音楽家として売り込んでいました。
それは、単に売り込みであっただけでなく、アマデウスにとっては各国の最高水準の音楽家に接する機会であり、当時考えうる最高の音楽教育であったといいます。また、モーツァルト家には、1回の旅行でレオポルトの年収の8倍にもなる収入をもたらしたのでした。。
オポルトの教育のおかげで、アマデウス演奏家・作曲家として大成したのですが
姉ナンネルルのほうはというと……演奏家としては当時注目されたものの、彼女の作曲は1曲も残されていないのです。。。
しかし、同じ血を享けて天分に恵まれ、同じ父のもとでともに教育されながら、弟にだけ作曲の才能が芽生え姉にはまったく芽生えなかった…というようなことがありうるでしょうか?!
ナンネルルは作曲をしなかったのか?! ナンネルルの曲は、なぜ残されていないのか?? ──これが、いま世界中のブログでインターネットを騒がせているテーマです‥‥

Mozart - Compositions from Notenbuch für Nannerl [Earliest Works] - YouTube
『ナンネルルの音楽帳』から
W・A・モーツァルト、ケッヘル1a,1b,1c,1d,1e,1f,2,3,4,5,5a,5b.
(ハープシコ−ド)

そこで、論争の的は、レオポルトの音楽ノート「ナンネルルのために」──「ナンネルルの音楽帳」とも呼ばれますが、
表紙に「ナンネルルのために」と書かれたこのノートを、父ははじめ、姉の音楽教育のために書いていました‥
ところが、弟アマデウスが4歳になり、アマデウスにも音楽の才があることが分かると、父はこの音楽帳を使って弟の音楽教育を始めました──というより、実態は幼い二人を並べて練習させていたのかもしれません。。
そして、レオポルトは、自分が作曲した練習曲や、他の作曲家の曲の間に、「5歳の最初の3ヶ月」と注記した4つのピアノ曲(K.1a〜K.1d)を書き込んでいるのですが、これらは後世の学者によって、アマデウスモーツァルトの生涯最初の作曲だと断定されているのです:

W. A. Mozart - KV 1b - Allegro for keyboard in C major - YouTube
『ナンネルルの音楽帳』から
W・A・モーツァルト、ケッヘル1b

Mozart, Allegro in F major, K.1c - YouTube
『ナンネルルの音楽帳』から
W・A・モーツァルト、ケッヘル1c

‥また、そのほかの注記のない曲の中からも、比較研究の結果‥‥レオポルトの作風とは違う‥当時のほかの作曲家のものでもない etc.‥アマデウスの作曲したものだと“判明”した曲もあります。。

しかし。。。そうやって、アマデウスの幼時の作品は次々に“発見”されて行くのに、
これはナンネルルの作曲したものだ…と推定された曲は、いままでのところ1曲も無いのは…ちょっと変ではないでしょうか??
アマデウスは大作曲家‥‥姉は単なる演奏家”という先入観を持って研究しているから、そうなるのではないか‥‥素人は、そう考えたくなります。。

そして、とくにその点にこだわるのがフェミニスト、女性運動家の人たちです。。



たとえば、こんなことが言われます↓↓

「学者たちは、『ナンネルルは作曲をしたけれども、1曲も残っていない』『ナンネルルが作曲家になれなかったのは、才能が無かったからではなく、作曲は当時若い女性に許された仕事ではなかったからだ』と言う。彼女に許されたのは、桁外れに才能のある弟の付属物として伴奏をすることだけだったのだ」

アマデウスの新たな作品を発見したと学者は言うけれど、
それらを実際に作曲したのがナンネルルなのか弟なのかは、永久に知りえないだろう。
ナンネルルは、男性の歴史的スターたちの成功の影に隠されてしまった女たち、姉・妹たち、あるいは妻たちの長いリストの一部にほかならないのだ」
↓↓次は、ヤフーの公式解説にまで載っている記述なのですが、残念ながら出典不明です。そもそも、‥その“曲”とは、W・A・モーツァルト作曲とされているどの曲なのでしょうか??!
(もし出典資料や曲名に関する情報をご存知の方は、どうかぜひギトンまでお知らせください‥)

「あるとき、アマデウスは、
『いまぼくが演奏した曲は、ぼくの姉が作曲したのです』
と聴衆に告げたので、父は、それ以後ナンネルルに対して、二度と作曲をしないようにと命じた」

(映画のトレーラー↑には、ナンネルルが自分の作曲した楽譜を焼き捨てる場面がありましたが、ギトンはあまり信憑性がないと思います。すぐれた音楽家は、自分の創った曲を音符1個に至るまで決して忘れるものではないし、親族が身近で作曲した曲についても同じだと思うからです。楽譜のある・なしは問題ではないのです)

このようなフェミニスト音楽ファンの激しい告発に対して、眉をひそめ、“ナンネロローグ”(ナンネル主義者?)などと蔑んで呼ぶ音楽愛好家も少なくないようでして‥‥

この“論争”、当分は熱の冷める気配がありません。。。

ANONYMOUS: Menuett in F major (Nannerl Notenbuch No. 5) - YouTube
『ナンネルルの音楽帳』から
作曲者不明「メヌエット 5番 ヘ長調

ただ‥ギトンが思うに‥「ナンネルルの音楽帳」には、まだまだたくさんの楽譜が、作曲者不明のまま残されています。。
そのなかから、将来、“これはナンネルルの作品”、あるいは“これはアマデウスとナンネルルの合作”と認定される曲も出てくるにちがいないと、ギトンは思うのです。

‥ただ‥それには非常に長い時間がかかるでしょう‥
キーボードの前に並んでいっしょに練習している幼い姉弟の作曲は、おそらく非常に似ていて、どれをどちらが作曲したのか判別するなどということは、ほとんど不可能なのではないかと思うからです‥‥

そういうわけで、マリア=アンナ・モーツァルト作曲の作品を聴いてみることはできないのですが、
そのかわり‥‥20歳のアマデウスが姉のために作曲した「ナンネルル七重奏」を最後に聴いてみたいと思います。。

Mozart - Divertimento K.251 3rd mvt. The Tel-Aviv Soloists Ensemble, Barak Tal - Conductor. - YouTube
Divertimento K.251 in D Major "Nannerl Septett"
Oboe Solo - Tamar Inbar.
1st Violin Solo - Daniel Bard
3rd mvt - Andantino
Tel-Aviv, February 2006
ヴォルフガング=アマデウスモーツァルト「ディヴェルティメント 11番 ニ長調」“ナンネルル七重奏”ケッヘル251
第3楽章 アンダンティー
テル=アヴィヴ・ソロイスツ・アンサンブル
ラク・タール(指揮)
タマル・インバル(オーボエ)
2006年ライヴ