ギトンの秘密部屋だぞぉ

創作小説/日記/過去記事はクラシック音楽

襲い来る悪鬼羅刹の群れ(2)

.
f:id:gitonszimmer:20211231170447g:plain


さて、『皇帝』第1楽章の“鬼気迫る”パッセージを分析したいと思いますが、
今夜は、説明の都合上、音源を変えてみます↓

こちらは、楽譜が出るので説明に便利‥ ただ、問題のパッセージの迫力はいまいちです。『皇帝』全体の華麗な流れの中にキレイに埋没させちゃってる感じです。
同時に鳴る声部(ピアノなどは、いつも3ないし4つの声部を同時に弾いている)のうち、どれを強調するかで、印象はずいぶん違ってくるものですね。。。
Hamelin plays Beethoven - Piano Concerto No. 5 (1st mvt, Part 1) Audio + Sheet music - YouTube
played by Marc-André Hamelin and the Tasmanian SO, conducted by Eivind Aadland
ベートーヴェン ピアノ協奏曲第5番“皇帝”
マルク=アンドレ・アムラン(ピアノ)
タスマニア交響楽団
14:59

まず、第1楽章全体の構成ですが、↓このようになっています。

 P ABAB ACA'C P ABABA

 私たちが注目するのは、↑「A'C」の部分です。


〔P〕0:05 - 1:15 最初に、あのよく知られたピアノの上昇スケールで始まる序奏:ジャーン タララララララ………♪



〔A〕1:16 - 2:11 第1主題(変ホ長調)。ピアノ→オーケストラの順に同じメロディーを演奏し、続いてオーケストラがメロディーを展開します。展開部では、金管が大活躍ですね。
雄壮かつ華麗な‥ まぁ、これが『皇帝』の“よく知られた顔”なわけですなw



〔B〕2:12 - 2:54 これを第2主題とします(変ホ短調変ホ長調)。ストリングス(弦楽器)が、忍び足のようなピアノ(弱音)で短調のテーマを奏で、続いて管楽器が長調に転じて、優雅に(ドルチェ,センプレ・レガート)繰り返します。


〔A〕2:55 - 4:27 第1主題に戻って繰り返し(オーケストラ)。ここまでずっと変ホ長調

〔A〕4:28 - 5:42 再び第1主題ですが、今度はピアノが弱音でヴァリエーション(変奏)を奏でます。

〔B〕5:43 - 8:05 第2主題(ピアノ)。ロ短調に転調しています。さらに、展開部で変ロ長調に転調します。

〔A〕8:06 - 8:56 第1主題。変ロ長調に転調しています。



〔C〕8:57 - 9:39 さあ、このへんから注意して聴いてゆく必要があります。ト長調の副旋律(C)。優しいメロディーが静かに歌います。



〔A'〕
9:40 - 10:08  《オーボエの下降旋律》第1主題(A)の再現部ですが、ハ短調になって、がらっと表情が変っています。ピアノのアルペジオに乗って、オーボエが、不安を掻き立てる下降旋律を奏でます。短調のメロディーが落す暗い翳のもとで、しだいしだいに不安がつのって行きます。
(↑画像のイタリックの数字は、シュナーベル音源の時刻。以下同じ)

   宮沢賢治「おお、怖い、怖い」



〔A'〕
続き 10:09 - 10:30 オーボエの下降旋律に重ねて、ピアノの上行アルペジオが、キーを変えながら不安を盛り上げて行きます。
   じつは、シュナーベルの演奏は、ここで、陰鬱に沸きあがってゆくようなピアノのコード進行を、ことさらに強調して弾いているのです。両手の音譜の間に隠れている和音を拾って、ブロック・コードとしてアクセントをつけて弾いています。
   ほかのピアニストは、ここを、これほどはっきりと強調して弾きません。シュナーベルは、ベートーヴェンの“鬼気迫る”部分に定位した独特の解釈を聴かせてくれます。






〔A'〕
続き 10:31 - 10:44 《衝撃的なブロック・コード》不安の頂点───フォルティッシモ。ピアノもオーケストラも、同じブロック・コードを何度も何度も叩きつけます:ジャーン。ジャンジャジャン ジャンジャジャン ジャンジャジャン ドンドドン。ジャンジャジャン ジャンジャジャン ジャンジャジャン ドンドドン。ジャンジャジャン ドンドドン。ジャンジャジャン ドンドドン



〔A'〕
続き 10:45 - 11:25 《遁走と迫害》ここが最重要です。追いかけるような、また、遁走してゆくような‥ ピアノとストリングスのスケールの掛け合いが続きます。短調のスケールで下降と上昇を繰り返すピアノは、右に左に行き場を求めて逃げ回る“自我”の遁走を‥、これを追いかけて下降するストリングスは、どこまでも追尾してくる“悪鬼羅刹”の足音を表現しているかのようです‥
   短調(マイナー・コード)のピアノに対して、長調(メジャー・コード)を主調とするストリングスは、勝ち誇って嘲笑いながら追いかけてくる圧倒的な数の魔物たちを表すかのようです‥

   宮沢賢治「悪鬼羅刹の鬼気迫る幻想‥」

   シュナーベルの演奏は、ここでも、ピアノの音がストリングスを圧倒してしまわないように‥、“追いかけてくる足音”と“遁走する自我”の恐怖とが、聴衆には対等に聞えるように演奏しているのです。



〔C〕11:26 - 12:21 ここで、やっと、ト長調の優しい副旋律(C)に戻ります。ところどころ、オーケストラがピアニッシモで、不安の余韻を奏でていますが、それもやがて鎮まります。
〔P〕12:22 - 13:02 フォルティッシモで始まる序奏(ジャーン タラララ……)の再現。「鬼気迫る」間奏のパッセージは終了し、明るく壮麗な『皇帝』に復帰します。

〔A〕13:03 -  第1主題。調性も変ホ長調に復帰しています。


ここで、シュナーベルをもういちど通して聴いてみましょう。
問題の箇所は、9:20 - 10:55 です。
- YouTube
Beethoven Piano Concerto No. 5 in E flat Major, op. 73
by Ludwig van Beethoven (1770-1827)
1. Movement "Allegro"
Artur Schnabel, piano
London Symphony Orchestra
Sir Malcolm Sargent, conductor
London, 24.III.1932
19:20
ベートーヴェン ピアノ協奏曲第5番 変ホ長調 作品73
第1楽章 アレグロ
アルトゥール・シュナーベル(ピアノ)
ロンドン交響楽団
サー・マルコルム・サージャント指揮
1932年3月24日ロンドンにて録音。

太陽が燦々と降りそそぐ静かな海に、灰色の雲がしだいに立ち込めてきて‥

突然の稲光とともに嵐になります。

しかし、いくばくもなくして嵐は去ってゆき、もとの明るい青空が復帰する‥


ざっと、そんな印象でしょうか?



ここまでお付き合いくださいました方は、お疲れさまでした‥
今夜は、またえらくマニアックなレコード鑑賞に付きあわせてしまいましたが、やはり、こんなベートーヴェンの“スタンダード・ナンバー”でも、演奏家によっては、おそろしく突っこんだ解釈をしているものだということ‥そして、それが必ずしもレコード評や“解説”には出てこないものだ、ということも分かりました。

しかし、それ以上に、なによりも私たちを驚かすのは、‥あのゼンマイと竹針でできた手回し蓄音機の時代に、これほど深い発見的聴き方をした音楽ファンがいたという事実です。

逆に言えば、そのような、オーディオ時代の私たちにもけっして退けをとらない超ウンチクの音楽ファンが、音楽について語るときには、私たちもけっして通りいっぺんに聞きながすわけにはいかないな‥ と、これからは、賢治の書いたものにベートーヴェンが出てきたら‥、ラグタイムが出てきたら‥、よほどいろいろと考えてみなければなるまい‥ と思ったのでした。。。



ところで、もうお別れの時間になりました。

今夜の締めは、このサイトではもうおなじみ、ヴィヴァルディのラ・テンペスタ・ディ・マーレ───《海の嵐》で!
A. Vivaldi: Concerto for Flute (La tempesta di mare) - YouTube
Il Giardino Armonico is one of the sets of the most renowned baroque music.In the summer of 2010, this chamber orchestra celebrated the 25th anniversary in the Residence Wurzburg.
アントニオ・ヴィヴァルディ:フルート協奏曲 RV433“海の嵐”
イル・ジャルディーノ・アルモニコ
2010年ライヴ、ドイツ、ヴュルツブルク
.

襲い来る悪鬼羅刹の群れ(1)

.




蓄音機とレコードが日本にも入ってきた大正時代、東北の片田舎で、給料をはたいて輸入物のクラシックの名曲レコードを買いあさっている農学校の先生がいました。

イナカでレコードを聞くと言えば、浪花節義太夫に限られていた当時のことです。

輸入取次をしていたビクターは、この町のレコード店だけがずば抜けて売上が良いことに驚いて、そちらには華族文人の避暑地でもあるのか?‥と問い合せたそうです。

ところが、レコード店の回答は、こちらはただのイナカで、教養のある人などはいない。ただ、宮澤賢治という変人で通った教員がいて、意味のわからない詩集や童話集を出したり、レコードを気ちがえのようにたくさん注文したりしているのだ‥というのでした。



当時のことですから、買い漁ると言っても、ベートーヴェンチャイコフスキーの“スタンダード・ナンバー”が大部分になってしまったのは、いたしかたのないところでしょう。

それでも、宮沢賢治なりの好みはあったと見えて、モーツァルトはほとんど聴いた形跡がなく、バッハ、ハイドンブラームス、ワグナーなども、少なくとも彼の作品に影響を与えることはなかったようです。

その一方で、クラシックだけでは飽き足らずに、アメリカン・ポップ・ソングや、草創期のジャズなどにも、旺盛な食手を伸ばしています:

Early 1920's Jazz - YouTube
Louis Armstrong - Trumpeter
Benny Goodman - Clarinet
Duke Ellington - Piano  et al.
1920年代初期のジャズ」
ルイ・アームストロング(トランペット)
ベニー・グッドマン(クラリネット
デューク・エリントン(ピアノ),ほか

ところで‥、その宮沢賢治ですが、亡くなる1ヶ月ほど前に、自宅を訪ねてきた友人と、あるクラシックの曲を聞いたさいに、
 「おお怖い‥ 手に手に異様な武器を振りかざした悪鬼羅刹が襲いかかって来る」

と呟いたと言います:



「賢さんのなくなられる少し前(昭和8年8月下旬)賢さんのお宅の表二階でベートーヴエンの第5ピアノ協奏曲(皇帝)(シユナーベル演奏)を聞いた時の印象は今尚鮮やかである。

 一体私は此のベートーヴエンのレコードに就いて忘れる事のできない大なる感激を三度繰返した。〔…〕

 第三回は賢さんと一しよに聞いた時である。〔…〕

 〔…〕私はあの晩此のレコードによつて表二階に醸し出された霊的な雰囲気と賢さんの『ホーホー』と云ふ感嘆の声と共に到底忘れる事は出来ない。(賢さんは愉快になると、聞く私達までをも愉快ならしめる様な『ホーホー』と云ふ叫び声をよくあげあの特徴のある白いツツパ〔ママ〕の存在を益々明瞭ならしめるくせがあつた)第一楽章アレグロの中程(レコード第三回中頃)の曲符を見たゞけでも全く圧倒されずには居れぬ物凄い迫力に至つて賢さんは眼の色を変へて飛び上がつた。

 『おゝ怖い\/』『手に手に異様な獲物を振りかざしておそひかゝる悪鬼羅刹の鬼気迫る幻想。』

 ───賢さんは耳から入る音楽が直ちに色や形の形象となる事をいつも云つておられた。

   〔…〕

 ベートーヴエンの力強いリズムは賢さんの詩の形式的構成に対して相当の暗示と影響とを与へたものらしい。」


宮沢幸三郎「スーヴェニール」(初出:1935年4月), in:続橋達雄・編『宮澤賢治研究資料集成』,第1巻,pp.182-183.



 さて、ベートーヴェンのピアノ協奏曲『皇帝』───あの華麗かつ明朗な‥王侯貴族の趣味にふさわしい名曲に、「悪鬼羅刹の鬼気迫る」ようなパッセージがあったでしょうか?‥

 さいわい、シュナーベルの1932年の演奏は、古いレコードが Youtube にアップされているので、聞くことができます。宮沢賢治の死去した大正8年(1933年)の前年3月の録音ですから↓、おそらく両宮沢氏が聴いたのも、この音源でしょう:
- YouTube
Beethoven Piano Concerto No. 5 in E flat Major, op. 73
by Ludwig van Beethoven (1770-1827)
1. Movement "Allegro"
Artur Schnabel, piano
London Symphony Orchestra
Sir Malcolm Sargent, conductor
London, 24.III.1932
19:20
ベートーヴェン ピアノ協奏曲第5番 変ホ長調 作品73
第1楽章 アレグロ
アルトゥール・シュナーベル(ピアノ)
ロンドン交響楽団
サー・マルコルム・サージャント指揮
1932年3月24日ロンドンにて録音。

「いったい、この曲のどこが鬼気迫るんだ?!」とおっしゃるかもしれません。

↑上の音源の9分20秒から先を、ちょっと聴いてみてください‥ どうでしょう?‥ 

9:20 -- 10:09 で、「おゝ怖い\/」
10:09 -- 10:55 「手に手に異様な獲物を振りかざしておそひかゝる悪鬼羅刹の鬼気迫る幻想」

ではないでしょうか?



‥しかし、この音源は第一楽章全部なので、長いです。もっと細切れに切ってお聞かせして、ここがこう‥ あそこがああ‥ と説明できるとよいのですが。。。
ギトンには、録音のしかたも、ヨウツベへのアップのしかたも分かりません...

同居人が、そういうのに詳しそうなので、今度聞いておきましょう。

とりあえず、ここは楽譜を見せながら説明したいと思います。。。 といっても、今夜はもう遅いので、明晩? ‥次回にしたいと思います。


「鬼気迫る」といえば‥ ↓こちらもちょっと聞いてみてください:
- YouTube
6:23
チャイコフスキー 交響曲第5番 第4楽章 アンダンテ・マエストーソ(前半)
ヴァレリーゲルギエフ指揮
マリインスキー歌劇場管弦楽団
2008年ライヴ録音。


.

新年のごあいさつを申し上げますっ(^.^)ノ


開けまして ‥‥‥ おめでたう
ござりまする
m(_ _)m






あ彡 お風呂から上がったばっかりで‥しつれいしますた‥‥///.^)/

さて。。。w
としの初めにふさわしいのは ↓↓↓やはるり この曲でせう!!!

Guillou plays Mussorgsky Pictures at an exhibition (experts) - YouTube
Guillou plays in his transcription of 'Promenade' & 'Gnom' from Modest Mussorgsky's "Pictures at an Exhibition" in St. Eustache
ムソルグスキー組曲展覧会の絵』から
「プロムナード〜こびと」
ジャン・ギルー(オルガン、編曲)
サン・ユスタシュ教会
グノームを足で弾き始めるのがいいwwww

ELP Pictures At An Exhibition '71 3/4 - YouTube
live concert of ELP in 1971 performing "Pictures At An Exhibition" of Modest Mussorgsky.
Keith Emmerson - keyboard
Greg Lake -Bass, guitar, vocals
Carl Palmer - drums/percussion
エマーソン・レイク&パーマー(ELP)『展覧会の絵
キース・エマーソン(キーボード)
グレッグ・レイク(ベース、ギター、ヴォーカル)
カール・パーマー(ドラムス、パーカッション)
1971年ライヴ


ELP Pictures At An Exhibition '71 2\ 4 - YouTube
ELP『展覧会の絵』から
「ザ・セイジ」
グレッグ・レイク(ギター、ヴォーカル)
1971年ライヴ

年明け早々からムソルグスキーか!!‥‥なんて言わないでくださいねw ギトンはこれが好きなんですから


↓↓これもヴァージョンがいろいろあるんですよねえ。。。
いちばんポピュラーなのがリムスキー=コルサコフ編曲版。たいていのオーケストラ演奏は、これです──つまり、耳が馴れてるw
ほかに、ディズニー映画『ファンタジー』に使われたストコフスキー編曲版。たしかにメルヘンチックにまとまってます。
あと、ムソルグスキーのオリジナル版もあって、最近はオリジナル版に挑戦する指揮者も増えましたが‥とにかく一度聴いてみると凄さがわかります‥頭痛がするかもwwww さらに、オリジナル版で合唱のついたのもあるんですね…まさに魔女の集会って感じで…ちょっと、オトソ気分で聴く感じじゃありませんから、それはまたの機会にまわしてですね
今夜のところは、“ふつうの”(笑)リムスキー=コルサコフ版で…
指揮者も、あんまり派手でない演奏を選んで‥この人にしてみました:

Klaus-Tennstedt-禿山の一夜 - YouTube
ムソルグスキー(リムスキー=コルサコフ編曲)『禿山の一夜』
指揮/クラウス・テンシュテット
演奏/ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団
1983年録音


YouTube
Khovanshchina, Act IV: Entr'Acte (Arr. L. Stokowski)
BBC Philharmonic Orchestra, conductor: Matthias Bamert.
ムソルグスキー:歌劇『ホヴァンシチーナ』から
第4幕第2場「追放されるゴリーツィン公の旅立ち」
ストコフスキー編曲版)
BBC交響楽団
マティアス・バマート(指揮)


ここで、『展覧会の絵』に戻りまして
こんどはキッシンのピアノで、「キエフの大門」



Evgeny Kissin - Pictures At An Exhibition [4 of 4] - YouTube
展覧会の絵』から「キエフの大門」
エウゲニー・キッシン(ピアノ)

締めは『展覧会の絵』のフィナーレをオーケストラで。
本物の鐘も入って楽しい演奏です:

Mussorgsky: Pictures at an Exhibition / Gergiev · Berliner Philharmoniker - YouTube
Modest Mussorgsky: "The Great Gate of Kiev" from Pictures at an Exhibition (orch. Ravel) / Valery Gergiev, conductor · Berliner Philharmoniker / Recorded at the Berlin Philharmonie, 22 December 2010
キエフの大門(終結部)」(ラヴェル編曲)
ヴァレリーゲルギエフ(指揮)
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
2010年録音
.

ある夕べ、スペインの町で


スペイン、カタルーニャ州 サバデイ市

午後6時、教会の夕べの鐘が鳴るころ、広場に腰掛けて憩う町の人々‥

なぜかコントラバスを弾くひとりの男‥

つぎつぎにやって来る楽器を抱えた男女‥‥

音を聞きつけて広場に集まってくる人々‥‥




なにが始まるのか?
カタルーニャ州バルセロナ県 サバデイ サン・ロック広場


こんばんは‥

。。。年末が近づいたので、こんやは“第9”を少し‥

Clockwork Orange
映画『時計仕掛けのオレンジ』より.
スタンリー・キューブリック監督
1971年.

60歳以下の方ならみなご存知の映画でしょう‥‥ちがう??

A Clockwork Orange - Intro [Old] - YouTube
『時計仕掛けのオレンジ』より メイン・テーマ:
「クイーン・メアリの葬送行進曲★」
演奏 ウェンディ・ウォルター・カルロス
原曲は、17世紀イギリスの作曲家ヘンリー・パーセルがメアリ2世(1688年,名誉革命で即位)の葬儀のために作曲した『メアリ女王の葬儀のための音楽』のうち「マーチ」。
ベートーヴェンの第9交響曲を聞くと残虐な攻撃衝動を発現する不良少年アレックス
暴力行為の限りをつくしたあげく、
仲間に裏切られて逮捕‥

司法当局は、彼をおあつらえ向きの実験台とみなし、
攻撃衝動を感じたとたん吐き気をもよおす犯罪不能人間に改造。。

ところが、その“改造教育”のBGMに使われたのが第9‥
第9を聞いただけで死ぬほどの苦しみを味わうトラウマを刷り込まれてしまいます‥

シャバに出たとたん、かつての仲間にリンチを受けて、逃げ込んだ屋敷が…
なんと、かつてアレックスが押し入って強姦と破壊の限りをつくした被害者宅‥‥しかも、政府の犯罪政策を批判する作家の家だった‥!!‥

作家は、第9の鳴り響く部屋に彼を監禁‥アレックスは窓から飛び降り自殺を図るが‥‥
病院で回復したアレックスは、今度は政府に利用され、第9を聞きながら内務大臣と握手しているところをテレビで放映される‥‥

この映画、ギトンはリバイバル上映館で見ましたが…

たしかに、第9の“歓喜の歌”は、アウシュビッツユダヤ人の“絶滅”にたずさわっていたナチスの将校も愛聴していたというし‥
じつはどこか悪魔的な要素がある音楽なのですよね‥??‥
‥‥だから、“歓喜の歌”を、世界は一家、人類はみな兄弟♪‥みたいな感じで、赤ん坊抱いた母親まで動員して幸せいっぱいに歌ってる日本の映像には…ギトンは超違和感を覚えてしまうのですよ。。。

時計仕掛けのオレンジ ベートーヴェン交響曲第9番 - YouTube
第4楽章から“歓喜の歌”(Remixヴァージョン)
演奏 ウェンディ・ウォルター・カルロス

最近の映画では、↓↓こんなのがありましたね?^^

Ludwig Van Beethoven Symphony No.9 ( Copying Beethoven) - YouTube
映画『コピーイング・ベートーヴェン』から

耳の聞こえないベートーヴェンのために、主人公(楽譜屋のアルバイトをしている女学生)が、オーケストラの間に座って、振りのタイミングを知らせています

ところで、この『第9』、
ギトンは、“歓喜の歌”よりも、第1楽章の最初が好きだったりします‥

↓↓古い演奏ですが、トスカニーニ指揮、NBC交響楽団(1952年)‥
こんな昔なのに、意外に快速で軽やかで‥おおげさな感じがぜんぜんしません‥
Arturo Toscanini - Beethoven : Symphony No. 9 in D Minor, Op. 125 ("Choral") 1st Movement - YouTube
Toscanini conducts the NBC Symphony Orchestra in his only studio recording of the Beethoven Ninth Symphony. Recorded in 1952.
ベートーヴェン交響曲 第9番』から
第1楽章 アレグロ・マ・ノン・トロッポ・ウン・ポコ・マイェストーソ(快速に、しかしあせらずに、やや壮大に)

第2楽章は、フィンランド出身サラステの最近の指揮で↓↓

[2/4] Beethoven: Symphony No.9 - YouTube
WDR Sinfonieorchester Köln - Kölner Philharmonie
conducted by: Jukka Pekka Saraste (Chefdirigent)
交響曲 第9番』から
第2楽章 モルト・ヴィヴァーチェ
ドイツ放送交響楽団
ユッカ=ペッカ・サラステ(指揮)

どうです? なかなかいいでしょ??
フィンランドの指揮者がいいのはシベリウスだけじゃないですね

第3楽章は‥‥古楽器の演奏を聞いてみましょう。第9ってこんなきれいな曲だっけ??↓↓

Beethoven Symphony No 9 3. Adagio molto e cantabile - YouTube
Frans Brüggen,
Orchestra of the 18th century
交響曲 第9番』
第3楽章 アダージオ・モルト・エ・カンタービレ
フランス・ブリュッヘン(指揮)
18世紀オーケストラ




第4楽章は、“歓喜の歌”が有名すぎて、‥アレンジはどれも似たり寄ったりで、これと思うものがないですね‥
ディープ・パープルもありますが‥‥いまいちそそられない‥

↓↓このヴァージョンは、ちょっといいです

Flashmob Peschiera del Garda - ufficiale - Inno alla Gioia Beethoven - YouTube
Flash mob Inno alla gioia di Beethoven ufficiale eseguito da 5 bande musicali a Peschiera del Garda (Verona) Italy il 1 giugno 2013.
歓喜の歌”(吹奏楽ヴァージョン)
ペスキエーラ・デル・ガルダ(イタリア、ヴェローナ県), 2013年6月.



↓↓今夜の締めくくりはディキシーで

Dixieland DixXband-The Ninth Symphony of Beethoven - YouTube
adapted to New-Orleans or Dixieland Jazz.
歓喜の歌”(ディキシーランド・ジャズ・ヴァージョン)
DixXバンド(リトアニア)

人気ブログランキングへ

モツにこみ━━第八夜:もつファミ


モーツァルトのゴッタ煮‥第八夜

最終回の今夜は、モーツァルトの家族‥父ちゃんと姉ちゃん‥‥


Leopold Mozart Musical Sleigh Ride - YouTube
from "Viaje Musical En Trineo"
Orquesta Festival Praga
Manuel Drezner
レオポルト・モーツァルト『音楽の橇滑り』から
プラハ祝祭管弦楽団
マヌエル・ドレズナー(指揮)

モーツァルトのお父さんレオポルト・モーツァルトは、ザルツブルクのカテドラル(大司教座聖堂)で宮廷楽団に所属しヴァイオリンを弾いていました。
後には、宮廷作曲家の称号を与えられ、宮廷副楽長に昇進しています。
オポルトの作品は、↑↑このように、効果音をふんだんに盛り込んだ楽しい曲が多く、宮廷、貴族、教会信徒の受けを狙ったポピュラーな作風でした‥‥反面、音楽的な内容はあまり印象に残るものがなく、できのわるい曲のように思われますが、‥‥どうしても息子のヴォルフガング=アマデウスと比べてしまうので‥それは酷というものかもしれません‥
(効果音のセンスもいまいち‥‥‥ぐゎひぃん‥それは言わないで!!)



ロック・オペラ「モーツアルト」(フランス版)

↓↓次の「おもちゃの交響曲」も、18世紀にハイドンの作品として出版され、1951年以後はレオポルトモーツアルトの作品とされてきましたが、最近1992年の新資料発見によって、チロル地方の郷土音楽家エトムント・アンゲラー神父の作品であることが判明しています:

L. Mozart (E. Angerer): Toy Symphony, Berchtesgadener Musik Kindersinfonie (1st version) - YouTube
I. Allegro
II. Menuetto
III. Finale: Presto
Toronto Chamber Orchestra / Kevin Mallon (conductor)
with (ocarina)(wooden trumpet)(recorder)(hurdy-gurdy)(snare drum & bird whistle)(ratchet & shakers & triangle),strings,oboe1,2,horn1,2
ケヴィン・マッロン(指揮)
トロント室内楽

「おもちゃの交響曲」は、18世紀にヨーゼフ・ハイドンの作品として出版されましたが、ハイドンのシンフォニーとはあまりにも作風が違うので、疑問が持たれていました。(現在でも“ハイドン作曲”と書かれている教科書や曲集があります)
1951年に、レオポルトモーツアルトの作品と思われる自筆譜(全7曲)がドイツで発見され、その中の3つの曲が「おもちゃの交響曲」の3つの楽章と同じだったので、“じつはモーツァルトのお父さんの作曲だった”というニュースは世界中に受け入れられました。たしかに、おもちゃの笛や太鼓を使ったこの曲の楽しさは、レオポルトの作風に似ているように思われたのです。。。

ただ、使われているおもちゃについては疑問が残りました。“ザルツブルクの玩具屋の依頼でレオポルトが宣伝用に作曲した”という・まことしやかな逸話も“創作”されたほどでしたが‥いかんせん、その「玩具屋」がどこだか分からない‥w‥楽譜に書かれているカッコウ笛やらラッパやら‥を作っていたという確証がありません。。。

1992年、昔から玩具製造地として有名なベルヒテスガーデンの近くにある修道院の蔵書から、「おもちゃの交響曲」の18世紀の写譜が発見され、そこには、チロル出身の作曲家エトムント・アンゲラーが1770年ころに作曲したと書かれていたのです。
しかも、写譜に指示されている玩具は、ベルヒテスガーデンで現在も製造されている伝統的木製玩具と一致したのでした。。。
(なお、アンゲラーは、この写譜発見まで、まったく忘れ去られていた作曲家でした‥)
左は、チロルのシュタムス修道院で発見された「おもちゃの交響曲」の写譜(扉頁)。ヴァイオリン、ヴィオラなどと並んで、カッコー笛など玩具の名前が並び、下左には「エトムント・アンゲラー」、その右に第1楽章冒頭の楽譜が見えます
下右は、ベルヒテスガーデンで製造されている木製玩具

そこで、現在のところ、「おもちゃの交響曲」はアンゲラーが作曲したという説がもっとも有力です‥‥【参照:Wikipedia
たしかに、「おもちゃの交響曲」は、笛などのおもちゃの音を除いた純粋な音楽としても、
単純素朴ながら、たいへん印象深い作品でして、
オポルトより楽才のある人が作曲したように思われますww
それだからこそ、レオポルトの作品はすべて忘れ去られても、「おもちゃの交響曲」のほうは、現在まで世界中で親しまれているのだと思います。。

Leopold Mozart/ヴォルフガングのために (第2楽章)ファンタジア - YouTube
レオポルト・モーツァルト(?)
瀬戸内 マンドリン クインテット演奏。

オポルトは、息子ヴォルフガング=アマデウスの練習用に曲を集めた音楽ノート「ヴォルフガングのために」、またアマデウスの姉ナンネルル用音楽ノート「ナンネルルのために」を残しています。
そこに書かれている曲は、レオポルトの作曲と思われるものもあり、同時代のほかの作曲家の作品を写したものもあり、幼いアマデウスの作曲に父が手を加えたもの、‥‥また、今日まで誰の作品か判明していない曲も多数あります。
↑上の「ファンタジア」も、東欧風の情趣に満ちた曲ですが、それだけに、レオポルトの作品にしては良すぎるようにギトンには思われるのですが…

Mozart's Sister (2011) HD Movie Trailer - YouTube
映画『モーツアルトの姉』(2011)トレイラ

↑↑モーツァルト・ファミリーで、いまいちばんホットな話題になっているのが、アマデウスの姉 ナンネルル(マリア=アンナ・モーツァルト)ではないかと思います。
“ナンネルル(Nannerl)”は、オーストリアの方言でアンナの愛称です



映画のトレーラーにも出ていたように、父レオポルトは、大司教に休暇をもらっては、才能のある姉弟ナンネルルとアマデウスを連れてヨーロッパ中の歌劇場や宮廷を巡って演奏を披露し、アマデウスを音楽家として売り込んでいました。
それは、単に売り込みであっただけでなく、アマデウスにとっては各国の最高水準の音楽家に接する機会であり、当時考えうる最高の音楽教育であったといいます。また、モーツァルト家には、1回の旅行でレオポルトの年収の8倍にもなる収入をもたらしたのでした。。
オポルトの教育のおかげで、アマデウス演奏家・作曲家として大成したのですが
姉ナンネルルのほうはというと……演奏家としては当時注目されたものの、彼女の作曲は1曲も残されていないのです。。。
しかし、同じ血を享けて天分に恵まれ、同じ父のもとでともに教育されながら、弟にだけ作曲の才能が芽生え姉にはまったく芽生えなかった…というようなことがありうるでしょうか?!
ナンネルルは作曲をしなかったのか?! ナンネルルの曲は、なぜ残されていないのか?? ──これが、いま世界中のブログでインターネットを騒がせているテーマです‥‥

Mozart - Compositions from Notenbuch für Nannerl [Earliest Works] - YouTube
『ナンネルルの音楽帳』から
W・A・モーツァルト、ケッヘル1a,1b,1c,1d,1e,1f,2,3,4,5,5a,5b.
(ハープシコ−ド)

そこで、論争の的は、レオポルトの音楽ノート「ナンネルルのために」──「ナンネルルの音楽帳」とも呼ばれますが、
表紙に「ナンネルルのために」と書かれたこのノートを、父ははじめ、姉の音楽教育のために書いていました‥
ところが、弟アマデウスが4歳になり、アマデウスにも音楽の才があることが分かると、父はこの音楽帳を使って弟の音楽教育を始めました──というより、実態は幼い二人を並べて練習させていたのかもしれません。。
そして、レオポルトは、自分が作曲した練習曲や、他の作曲家の曲の間に、「5歳の最初の3ヶ月」と注記した4つのピアノ曲(K.1a〜K.1d)を書き込んでいるのですが、これらは後世の学者によって、アマデウスモーツァルトの生涯最初の作曲だと断定されているのです:

W. A. Mozart - KV 1b - Allegro for keyboard in C major - YouTube
『ナンネルルの音楽帳』から
W・A・モーツァルト、ケッヘル1b

Mozart, Allegro in F major, K.1c - YouTube
『ナンネルルの音楽帳』から
W・A・モーツァルト、ケッヘル1c

‥また、そのほかの注記のない曲の中からも、比較研究の結果‥‥レオポルトの作風とは違う‥当時のほかの作曲家のものでもない etc.‥アマデウスの作曲したものだと“判明”した曲もあります。。

しかし。。。そうやって、アマデウスの幼時の作品は次々に“発見”されて行くのに、
これはナンネルルの作曲したものだ…と推定された曲は、いままでのところ1曲も無いのは…ちょっと変ではないでしょうか??
アマデウスは大作曲家‥‥姉は単なる演奏家”という先入観を持って研究しているから、そうなるのではないか‥‥素人は、そう考えたくなります。。

そして、とくにその点にこだわるのがフェミニスト、女性運動家の人たちです。。



たとえば、こんなことが言われます↓↓

「学者たちは、『ナンネルルは作曲をしたけれども、1曲も残っていない』『ナンネルルが作曲家になれなかったのは、才能が無かったからではなく、作曲は当時若い女性に許された仕事ではなかったからだ』と言う。彼女に許されたのは、桁外れに才能のある弟の付属物として伴奏をすることだけだったのだ」

アマデウスの新たな作品を発見したと学者は言うけれど、
それらを実際に作曲したのがナンネルルなのか弟なのかは、永久に知りえないだろう。
ナンネルルは、男性の歴史的スターたちの成功の影に隠されてしまった女たち、姉・妹たち、あるいは妻たちの長いリストの一部にほかならないのだ」
↓↓次は、ヤフーの公式解説にまで載っている記述なのですが、残念ながら出典不明です。そもそも、‥その“曲”とは、W・A・モーツァルト作曲とされているどの曲なのでしょうか??!
(もし出典資料や曲名に関する情報をご存知の方は、どうかぜひギトンまでお知らせください‥)

「あるとき、アマデウスは、
『いまぼくが演奏した曲は、ぼくの姉が作曲したのです』
と聴衆に告げたので、父は、それ以後ナンネルルに対して、二度と作曲をしないようにと命じた」

(映画のトレーラー↑には、ナンネルルが自分の作曲した楽譜を焼き捨てる場面がありましたが、ギトンはあまり信憑性がないと思います。すぐれた音楽家は、自分の創った曲を音符1個に至るまで決して忘れるものではないし、親族が身近で作曲した曲についても同じだと思うからです。楽譜のある・なしは問題ではないのです)

このようなフェミニスト音楽ファンの激しい告発に対して、眉をひそめ、“ナンネロローグ”(ナンネル主義者?)などと蔑んで呼ぶ音楽愛好家も少なくないようでして‥‥

この“論争”、当分は熱の冷める気配がありません。。。

ANONYMOUS: Menuett in F major (Nannerl Notenbuch No. 5) - YouTube
『ナンネルルの音楽帳』から
作曲者不明「メヌエット 5番 ヘ長調

ただ‥ギトンが思うに‥「ナンネルルの音楽帳」には、まだまだたくさんの楽譜が、作曲者不明のまま残されています。。
そのなかから、将来、“これはナンネルルの作品”、あるいは“これはアマデウスとナンネルルの合作”と認定される曲も出てくるにちがいないと、ギトンは思うのです。

‥ただ‥それには非常に長い時間がかかるでしょう‥
キーボードの前に並んでいっしょに練習している幼い姉弟の作曲は、おそらく非常に似ていて、どれをどちらが作曲したのか判別するなどということは、ほとんど不可能なのではないかと思うからです‥‥

そういうわけで、マリア=アンナ・モーツァルト作曲の作品を聴いてみることはできないのですが、
そのかわり‥‥20歳のアマデウスが姉のために作曲した「ナンネルル七重奏」を最後に聴いてみたいと思います。。

Mozart - Divertimento K.251 3rd mvt. The Tel-Aviv Soloists Ensemble, Barak Tal - Conductor. - YouTube
Divertimento K.251 in D Major "Nannerl Septett"
Oboe Solo - Tamar Inbar.
1st Violin Solo - Daniel Bard
3rd mvt - Andantino
Tel-Aviv, February 2006
ヴォルフガング=アマデウスモーツァルト「ディヴェルティメント 11番 ニ長調」“ナンネルル七重奏”ケッヘル251
第3楽章 アンダンティー
テル=アヴィヴ・ソロイスツ・アンサンブル
ラク・タール(指揮)
タマル・インバル(オーボエ)
2006年ライヴ