ギトンの秘密部屋だぞぉ

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雲の信号

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A. Vivaldi: Op. 3 n. 3 - Concerto for violin, strings & b.c. in G major (RV 310) - YouTube
The English Concert / Trevor Pinnock (conductor)
ヴィヴァルディ『調和の霊感』第3曲(RV310)
トレヴァー・ピノック指揮
イングリッシュ・コンサート

あゝいゝな、せいせいするな


それはまだ感情ではない。。。
感情を、愛を、憎しみを、欲望と物のかたちをとらえるには、
彼の意識は薄明のまどろみから、あまりにも抜けきっていない。。。


風が吹くし
農具※はぴかぴか光ってゐるし
山はぼんやり
岩頸だって岩鐘だって
みんな時間のないころのゆめをみてゐるのだ

※ 1世紀前のこの詩を正当に読むには、「農具」は「ショベルの刃」または「キーボード」と読まれなければならない。

Vivaldi : Concerto pour quatre violons, en mi mineur RV 550, Allegro essai. - YouTube
Par Virtuosi Saxonae, Ludwig Guttler.
調和の霊感・第4曲・第2楽章
2:18


労働のあとの半睡した意識のなかで、風が「風」になる一歩手前の‥ ‥山が「山」として現れる直前の‥“名辞以前のまどろみ”のなかで、時間はとまる‥

時間はとまる‥

数億年前に火山が噴火し、冷え、侵食され、岩頸となり岩鐘となり形づくられる長い長い時間もまた、まどろみのなかにある‥ 時間はまだ時間となって流れることはない‥


  そのとき雲の信号は
  もう青白い禁慾の
  春ぞら高く掲げられてゐた

労働の後で身体を休めながら、彼の現実の意識は没我の境にあるというのに

彼の非現実の‥ 異世界をみつめる非現実の意識は、こんなにもくっきりと覚醒しているのだ

俺エピキュリアンが、至幸の時間をむさぼり、身体と自然が寄り添う世界をかいま見ているときに

彼は尖った欲望の矛を俺の身体にうちこみながら、禁慾の旗幟をはためかすのだ。。。

Vivaldi - Opus 3 no 1 in D Major - L'estro Armonico - YouTube
Performed by The English Concert
Directed from the harpsichord by Trevor Pinnock
『調和の霊感』第1曲
7:36
トレヴァー・ピノック指揮
イングリッシュ・コンサート


「‥おまえは冷たいエゴイストだ。神のみ名によるエゴイストだと、
君はもう一遍、云って呉れ。
けれども俺は快楽主義者だ。
冷たい朝の空気製のビールを考へてゐる。
‥白樺の薄皮が、隣の牧夫によって戯むれに剥がれた時、
俺はその緑色の冷たい靭皮の上に包帯をしてやるだろう。」

「重いニッケルの雲が、あの高原を、氷河の様に削って進む日、
 俺の心は雲やたくさんの峯を越て、掘り出した馬鈴薯
 選り分ける、君の処へ飛んで行く。」
 (宮沢賢治「蒼冷と純黒」)


山はぼんやり
きっと四本杉には
今夜は雁もおりてくる

  (宮沢賢治「雲の信号」)


きょう、通勤の電車の中で、ドアのガラスに倚っているマドラスシャツの彼が‥
その細かい毛におおわれた腕が‥
タイトな綿布から出たとびいろのすあしが‥
みょうにまぶしかった。。。