ギトンの秘密部屋だぞぉ

創作小説/日記/過去記事はクラシック音楽

メカニックの幻影

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J.S.Bach.Bourree/S.L.Weiss.Gigue(Kristo Käo:guitar)
http://www.youtube.com/watch?v=cyhl-98URYE&list=PLF4DDEF77A60FB021

工場街の中で生まれた。

グラインディング・ミルの回る音が子守唄だった。
工場から流れ出る排水で洗濯する女たちの傍らで遊んだ。

毎晩、巨大な機械の夢を見た。
毎朝、言い知れぬ恐怖におののきながら目覚めた。
巨大な機械の走査線上を、いつも異常なスピードで疾駆しているのだった。

天井の高い巨大な工場のはらわたに陥り、声を出すこともできないのだった。

バッハ:メカニックの迷宮(J.S.Bach:Suite for Lute in E Major BWV1006a(1/2) -Göran Söllscher,Lute; 1.Prelude, 2.Loure[at 5:09])
http://www.youtube.com/watch?v=kn0d0NEa740&list=PLF4DDEF77A60FB021

大人に夢の話をしても、誰も理解することができなかった。
そもそも、それを人に伝えられる言葉を、私は持たなかった。
今でも持ってはいない。今も、まったく不十分だと感じながら書いているのだ。

学校の先生は、ときどき理由もなく頑なに黙り込んでしまう少年の両親を呼んで、毎日少年が帰宅したら一日の出来事を話させるように指導した。
両親は指導に従った。
そして、私はまたひとつ、人を騙す上手なお芝居を習得しなければならないことになった。

スウィンギング・バッハ(Jiří Stivín -swinging bach after: Suite No.2 in B minor, BWV1067)
http://www.youtube.com/watch?v=OIzqxUfqQQM&list=PLF4DDEF77A60FB021

そして私は巨大な機械工場の中に取り残された。
グラインディング・ミルの非情な響きが、逃れたくても逃れられない私を狡猾な情人のように包み込んでいた。

私につきまとう影が、ひとびとを私から遠ざけるのが私には分かっていた。

それは、決して言葉にすることができなかった。

それを言葉にすることができたとき、私は解放されるのだろうということも、いつか私には分かるようになっていた…

J.S.Bach:Vivace from Trio Sonata Nr.6, in G-major BWV530; John Williams: Guitar, Peter Hurford: Organ
http://www.youtube.com/watch?v=XNgKMGbYA2Y&list=PLF4DDEF77A60FB021&index=92



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